「なんか、見ててゾクッときませね」と若者は言った。稲沢で仕事するんだったら、 一度は見ておきなよ。僕は仕事で付き合いの営業マンに勧めておいた。事務所の扉にメモを張っておいたのは、その為。「残念ですが、時間ですから」と言う彼と第二鳥居で別れた。4時すこし前だった。 |
僕は楼門前の柵に位置を決めた。大鏡餅奉納千代田地区の裸集団が 通り過ぎた。 |
市内50程の地区の儺追笹が集まる。だが、それ以外からも儺追笹が納められる。 例えば、隣町の祖父江は毎年先陣争いをする一大集団だ。その距離は神社から真っ直ぐ西に8Km。例えば、名古屋市西区の庄内地区。この近辺には、太乃伎神社、伊奴神社という古社がある。その氏子連が30kmをかけて笹を奉納する。庄内地区は、かっては尾張国山田郷であった。この祭礼の伝統1200年は、こんな所にも、脈々と受け継がれている。 |
手桶隊が楼門をくぐる。4時20分。例年通りた。 |
PM04:30参道南(撮影 まみぃ) |
楼門と第三鳥居の距離は200m。第三鳥居側東に浅間神社があり、神社桟敷が
設けられる。この前にちょっとした広場があり、例年、この当たりから神男が
群集の中に飛び出す。神社桟敷当たりで、手桶の水が宙に舞い出した。 一度ダミーらしき一団が出たらしい。その後、神男が出たのだが、群集に気付かれず、スタスタスタと楼門前まで来たようだ。 楼門西に手桶衆が3、4人走った。そして渦ができ、水が巻かれた。 僕の目の前の様子で察しがついた。 |
PM04:50 楼門前(北西水汲み場あたり) |
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最初に渦が出来た所には、手桶の水汲み場がある。不意に渦が出来、
巻き込まれた男達が倒れ込み水汲み場を塞いだようだ。水が撒かれない。
水が宙に舞わない。 やっと渦が移動し、東の柵に押し付けられた。長い間揉みあっている様子だが、 水が撒かれない。水が宙に舞わない。 柵にしがみ付いてカメラを構える僕に、水は容赦なく降り注ぐはず。それを覚悟 で皮ジャンに身を固めているのだが。水は舞わなかった。 やっと渦が移動し、楼門を潜ったらしい。 5時ちょうど頃だったと記憶している。もう終った らしいという雰囲気になり。柵の最前列にしがみついていた 人が離れだした。目の前を渦が通過し、手桶の 水しぶきを撮ろうという密かな目的は叶えられず、何か拍子抜けの感じ。 機動隊の「負傷者を運びますから 通路を開けてください」との拡声器の声の中、僕も帰ろうとした。 |