楼門


2001年 2月5日月曜日(旧暦1月13日)


神男が出ると、男達の間をすり抜け楼門へ向かった。
渦に飛び込む仲間のカメラを預かっている。
今年の僕のポジションは後方支援。

楼門の通路は人もまばら。
一瞬、ここにしようかと思ったが
楼門と拝殿の中間の御簾の隅にポジションを決めた。
胸にまつきちさんの水中カメラ、
肩にturboさんのデジカメ、片手にビデオ。
横の男が、「なんや、お前。フル装備やな。」と覗き込んだ。
いざとなったら危険である。
いつでも柵の外へ飛び出せる位置をキ−プした。

ワッセ−、ワッセ−。
掛声がだんだん近づく。
楼門越しの四角い空間に、
何度も水が舞う。
ワッセ−、ワッセ−。
ワッセ−、ワッセ−。
ワッセ−、ワッセ−。

西に、東に、何度も行ったり来たり。

やっと楼門の通路を手桶隊が切り開いた。
境内の水汲み場とのラインが確保される。
ワッセ−、ワッセ−。
ワッセ−、ワッセ−。
ワッセ−、ワッセ−。

栓を抜く様に、渦が楼門の通路をくぐる。
境内の男達が一斉に押し戻す
渦は西に揺れ、東に戻る。



目の前に渦が近づく。
柵に押し付けられた男は半分体を外に反らせる。
宮半纏の男達が懸命に支える。
僕は柵の外に飛び出た。
宮半纏の男達と一緒に男を肩で
押しも戻しながら、ビデオを両手にかざした。
渦の真上から撮り続けた。

渦の中心は男一人分程の平面。
周囲の男達は押し寄せる力に、倒れまいと必死である。
神は無事か!、隊長は無事か!
僕は、ビデオを回し続けた。

ワッセ−、ワッセ−。
ワッセ−、ワッセ−。
ワッセ−、ワッセ−。
キヨシさんが前歯2本折ったのはこの時か。
二年前のことが頭をかすめる。

やがて集団は難追殿に向かう。
人の圧力は弱くなって行く。
僕も柵に入った。跡を追う。
御簾を離れる時、柵の側に
榊を揺する神官をみた。
確かに、僕は鈴の音を聞いた。




2001.2.5

by Kon

撮影 長井洋