いつも、皆になんと呼ばれる。

キヨシです。

村松さん、
わるいけど今日は
キヨシと呼ばしてもらうよ。


そう言って屈強な男たち数人は散っていつた。


残された神男を隠すように
前後に寄り添う隊長と護衛は
群集のなかに進み出た。

2月の大地は冷たい。
素足からそれが伝わってくる。

裸男の群集の中で
素足は神男だけである。
運よくこの場所に居合わせた裸男は,
それに気付くと
肩や背に平手打ちで触れ
逃げ去る。


出たぞ、出たぞ。
そういって逃げ去る。

そして
4000もの男たちが、
一人の男めがけて
押し寄せてくる。
どよめきは
まさに雷鳴とも言える。

よしゃ、行くぞ。
肩に捕まれ。


中腰になった隊長の肩に
負ぶさるように両手を預け
神男も身構える。

この姿勢で
神殿めざし群集のなかを進むのである。
そして、一進一退。
この姿勢に終始する。
横目で垣間みる群集は足しか見えない。
フラミンゴの集団のように
足を上げ下げする光景である。
散っていった副隊長らもこの中にいるはずである。


キヨシがんばれ。
そのこえが時折耳に届く。

キヨシがんばれ。
四方から聞こえてくる。


この声が地獄絵にも似た
この一瞬の頼りである。




神男経験者の会。その会を 鉄鉾会と呼ぶ。
この祭りを支える男達の会である。



1999年4月
村松さんを囲む会の話より
by Kon