「イリジウム」は何だったのか2000.11.28


 

イリジウム
 

 地球全域で通信可能な世界初の衛星携帯電話システムとして 「イリジウム」 は1998年11月華々しく登場した。株の18%を持つ米モトローラを筆頭に米国主導の次世代ビジネス。 日本からも第二電電(DDI)グループが出資していた。 私も「イリジウム」のペ−ジを見たし、資料も請求してみた。今手元にあるパンフレットから、 その概要は以下である。
地上760キロメートルの低軌道に66機の衛星を周回させ全地球をカバ−。 *地球どこでも1つの番号で通話できる
*地上3600キロメートルの静止衛星に比べ音声遅延がない
*衛星と端末の直接交信で地上インフラを整備する必要がない

 この電話が普及すれば雪山遭難者が家族と会話できる。 すごいなと思った。 友人がモロッコへ2年の海外協力隊として出向くことになった。 通話料を調べると6$/分。 国内間の通話料でも1.64$/分。まだ日常生活には使えそうにないと感じた。 それに端末が37万円。
目標加入者数60万人に対し、1998年12月時点で約5万と苦境に陥っていた。 衛星システム維持には、月額1000万ドル近い運転資金が必要という。 1999年8月に「イリジウム」は米連邦破産裁判所に会社更生を申請する。 DDIは2000年1月14日、「イリジウムは清算以外にない」とし、3月期決算で 特別損失を計上した。総投資額は推定50億ドル。この次世代ビジネスは わずか1年余で崩壊し、66機の衛星は次々と地球の大気圏に突入、燃え尽きていく。
この「イリジウム」に関心を持ったのは日本のバブルにおいて「土地」 以外に投資先がなかったかという疑問からである。「イリジウム」は1990年に計画が始まり1998年に衛星打ち上げを完了していた。
IT時代の情報端末として携帯電話は動かし難い地位を獲得する。 地上の設備投資を 必要としないこの計画が成功すれば、明らかに資本の投資先は「土地」ではなく「宇宙」となる。 その流れは間違って ないはずなのだが。なぜ66機の衛星は消えさるのだろう。少しニュ−スを フォロ−してみたくなった。

 

もうひとつの衛星携帯電話事業
 

 もうひとつの衛星携帯電話事業「ICO」(本社・ロンドン)。衛星12基を 稼動させて2000年8月の事業開始を目指していた。日本からはKDDが出資している。 イリジウムと同様、資金難に直面。1999年8月に会社更生申請を強いられていた。 イリジウムとの違いはまだ衛星を打ち上げていなかったことである。 音声主体のシステムをインターネットなどにも応用出来るデータ通信主体に 変えることが可能であった。この変更で追加投資をし、開業は計画より2年遅れ で実施される。

ニュ−スソ−ス
Mainichi INTERACTIVE カヴァーストーリー(2000-03-21)
http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/archive/200003/21/


 

イリジウムはファラオ?
 

 全地球をカバ−する衛星網による携帯電話。「イリジウム」がやらなければ 誰かがビジネス特許を取っているだろう。この次世代ビジネスも音声主体からデ−タ−主体へ、アナログからデジタルへ、この時代の変化とその タイミングで明暗を分けた。このことを見極める感性を常に磨いておきたいと思う。
 これは私の個人的な見方とおことわりしてだが、「イリジウム」 は「ファラオ」でなかったのか。古代エジプトの王「ファラオ」 は人にパンを約束して ピラミットを建設した。ピラミットは王の墓であり人々の生活に直接必要ではなかった。 しかし、日々の人民の糧を保証し 水路や灌漑を作る技術の継承と改良には役に立ったはずである。 そして王国が維持されたことになる。
 「イリジウム」の計画の発足が1990年。 ベルリンの壁の崩壊が1989年。米国の軍需産業は新たな市場を模索 したはずである。過剰な生産設備の産物は66機の衛星として消滅させる宿命を持っていたのでは。 すくなくとも推定50億ドルの投資で生活の糧を得た人は少なくない。 「イリジウム」は「ファラオ」ではなかっのか。


2000.11.28
by Kon