おすはらさま


小牧市の西に、岩倉市がある。

五条川を挟んで小牧市と接する岩倉市曽野町に

今では、ここだけに残るおもしろい風習がある。

神明社の南は、この地区の苗代田であるが、

毎年6月15日には

遠く岐阜県美濃市の洲原神社に参拝して

御札をもらってくる。

その御札といっしょに花を

水口(水田の水の取り入れ口)に立てる。

苗が育ち、無事田植えができるように祈る。

「おすはらさま」と呼ばれる行事である。



稲が成長すると、次は病虫害。

この平野一帯には、夏の行事として

うんか祭、虫祭、虫送りという呼び名で

稲の病虫害除け行事があった。

例えば、小牧市北外山の外山神社の夏の祭礼。

六尺程の松明を持って田を巡り

村の外で焼く。昭和9年に途絶えた。



稲の品種改良、農薬散布等で

このような心配からは開放され

行事の意味は薄れた。

しかし、

日照りや台風といった自然の力には

やはり神に祈るしか術はない。

人々が祭に托した祈りは

時代を経ても生き続ける意味はここにある。



かって、この国の風土のなかで

天と地の恵により生きた人々の

素朴な祈りが、祭の原形であろう。


世界各地の農耕社会では

女性と耕地の同一視、男根と鋤の同一視

農業作業と生殖行為の同一視が認められる。

例えば

宗教史学者、ミルチャ.エリア−デ著

「大地.農耕.女性−比較宗教類型論−」

1968年、未来社

例えば

秋田県北秋田郡のカンデッコ

「性器信仰の系譜」佐藤哲郎

1995年、三一書房



韓国南部の古代史との関連で注目される

大阪府池上.曽根遺跡(弥生時代)では、

鳥型木製品と同時に

大男茎形(木製品)が出土した。



平安時代の書、「古語拾遺」には

御歳神の怒りにふれ、蝗(イナゴ)が発生

占いにより牛の肉を大男茎形を添えて

溝口に置いたとの記事がある。


男根とは萎えた稲穂の回復を象徴する

シンボルであったように思える。



広範にこの国で行われたであろう豊年祭。

生産基盤の変化で実質的意味と祈りを失った行事は

祭として継承されるが、消滅の運命をはらむ。

残念ではあるが、基盤を失って一度廃れた祭は復活はきない。

この地に残った、この田県神社豊年祭は

極めて貴重で大きな意味を持つと思う。


2001.3.25
by Kon