「ちょっと おみゃあさん。どう見たって、わたしのほうが、背が高いがなも。」 「なにいっとりゃあす おみゃあさん。わしのほうが 背が高いでいかんが。」 「わしの所からは、日本一高い富士山が、拝めるんだぎゃあ。」 「なんの なんの。わしのとこからは、伊勢の海の果てまで、見えるだがなも。」 「なにいっとりゃあす。わしは尾張の国で一番高くて、富士山のように、 形も美しいから、尾張富士と、言わとるんだに。」 「なにいっとりゃあす、わしは尾張の国にずっとあってなも、 一番高いから本宮山と、言われとるぎゃあ。」 二つの山は、毎日口げんかばーか、してたげな。 ある日、どえりゃあ夕立があったぎゃあ。 「ピカピカッ、ゴロゴロゴロッピカッ ピシャン。」 かみなりは 尾張富士のてっぺんに落ちてまーたげな。 「おみゃあ。これで勝負はついてまーた。わしが一番高いから、 かみなりは私の所に落ちたんだがなも。」 かみなりが落ちた勢いで、尾張富士のてっぺんからどえりゃあ、 岩が転げ落ちてまーたのを本宮山は見とったがなも。 (まーひゃ、わしの勝ちがはっきりしたぎゃあ。)と、 本宮山はにっこりしたが、だましかっとる。 「おみゃあ。ぐうの音も出にゃあだろう。」 「えか、だがよ、尾張富士。雨水は低い方へ流れて行くんだぎゃ。」 「そーだがね。それがどうしたと、言うんだぎゃ。」 「雨もまだ、ふっとるでなも。今から、はっきり勝負をつけなかん。」 「まだ、諦めとらんの、本宮山。一体どうしゃあす。」 「うん、おみゃあのてっぺんと、わしのてっぺんとに、といをかけわたすんじゃ。 といの水の流れてきた方が負けじゃ。」 「なるほど、それは面もろいでかんわ。」 「では、尾張富士よ。ちゃっとせなかん。」 あたまからといの、水をかぶってまーたのは、尾張富士だったげな。 その夜のことだで。ふもとの池の村のしょうやさんが、夢を見やーた。 夢の中に、尾張富士のかみさまが、出てきやーたげな。 「しょうやさん。わしは 本宮山に負けてくやしーて、たまらんぎゃ。 誰でもいいぎゃあ。わしのてっぺんに、小石をひとつでもいいから、 上げてちょうだいなも。石を上げてくれたものには、ねがいごとを、 きっとかなえたるで。」 しょうやさんは、このことを、村人達に話しやぁた。 みなで石をお山に、あげたった。 「みゃあたか、ききゃあたか、石上げまつりヨナ、 石がお山をたこーする、ヨイショ。」 いまでも8月1日の、石上げ祭りには、こんなうたごえにあわせて、 石を持った人々の、ぎょうれつが、尾張富士のてっぺんまで、 つづいとりゃあす。 「あいちのむかしばなし 1 」 愛知県小中学校長会編より |